「年をとっても美しく」出張美容室 (岩本ゆり)

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9月20日(月)は敬老の日で祝日でした。毎年のようにこの日は高齢者にちなんだテレビ番組が多いのですが、その中でもコメントにはっとさせられた番組がありました。それは、NHKの「おはよう日本」でした。

この日の特集は、出張美容室。世田谷区の『福祉美容室カットクリエイト21』で働く藤田巌さんにスポットを当て、「年をとっても美しく」することの大切さを問いかけていました。
スタジオゲストの看護協会理事、山崎摩耶氏によると、出張美容は全国で900箇所以上で行われているとのこと。介護保険が始まって、介護は衣食住の全てが整ってのものだと言う意識が広がったことで、利用者も、サービス提供側も生活の質を上げることに目が向くようになったことから広まったきたとの話がありました。でも、現状の数では、ニーズに比べてまだ美容師さんの数が少ないとか。
最近は、このサービスも結構浸透したのではないか?と思っていましたが、テレビで藤田さんが美容室まで来られる方のために、車を自ら運転して迎えに行っていらしたのを見て、ここまでやって下さる方は少ないだろううなあ、と思いました。

テレビでは、出張美容を受けて良い影響を受けたお二人の方のお話が紹介されていました。

お1人は、痴呆による混乱から回復した女性。夫に先立たれ、子供もいない1人暮らしの女性が、生きる張り合いをなくして物忘れのひどくなっていた時に、ホームへ入所しました。生きる意欲の低下した彼女が、鏡の前では髪をとかす仕草をするのを見た寮母さんが、髪を切ることを薦めたところ、彼女はそれを非常に喜び、生きる希望になったようです。昔の生活を思い出し、自分らしさを取り戻すきっかけに、美容院がなった例でした。

またもう1人の女性は、脳梗塞による左半身麻痺の方。出掛けるときは必ず美容院に行くほどおしゃれな方だったのが、麻痺のために自分の身なりを整えることも難しくなってしまいました。そうなると、リハビリのために病院へ行くこともためらわれました。そこで娘さんが出張美容を頼み、昔のように素敵なお母さんを演出。リハビリを続けていくことが出来ました。そして、杖があれば1人で歩けるようになった彼女は、今度は娘に旅行へ行こうと誘われます。4年ぶりの旅行に勇気がでない彼女。藤田さんに思わずそのことを語ると、彼は「旅行先のコスモス畑に佇む娘」というイメージで髪を切りましょう!と提案。短く髪が切られた頃には、彼女は何かに背中を押されたような清々しい笑顔になっていました。数日後、赤い上下の服に身を包んだ彼女は長野へ出発しました。娘さんの大きな愛と、社会の風としての藤田さんの力が総力を発揮して、彼女を優しく包んだ結果だと思います。

山崎氏によれば、昔は老人ホームに入所すると、職員がバリカンで全員同じ短い髪型に切ったものだという話をされていました。人間を人間と認めていない姿がそこに現れているように思います。
美容の話はともすると、単に今が豊かで贅沢になった、余裕のある良い社会になったから、生活の質を上げるなどということができるよういなったと言うことで片付けられてしまいがちです。

しかし、生活の質をあげることは、贅沢なのでしょうか?「人間は1人では生きられない」「人は社会的な動物である」「人は、人との交わりの中で生きる」という当たり前のことを、当たり前に出来る環境が贅沢なのでしょうか?きれいになること、気持ちよくなることだけが美容の目的ではありません。社会との接点を持つこと、人にどう見られているかを気にすること、という人間としての当たり前の営みを継続することが、高齢者にも美容が必要な最大の理由なのだと思います。
医療や介護の世界で「生活の質を上げる」ことは、当たり前の生活をすることと同義のような気がしてなりません。

最後にまだ若いアナウンサーの女性が、「男性はどうなのでしょう?」「年をとっても、希望していることは私たちと同じだということが分かりました。」といった感想を述べていました。そして、男性アナウンサーから「○○さんも、年をとってもきれいになりたいという気持ちを忘れずにいたいですよね。」と問いかけられて、「年をとるなんてまだ先の話だから。。。」というように否定的に笑っていました。前向きな動きを取り上げた番組のはずだったのに、これを見た高齢者の方々は、一体どんな気持ちがするのだろうかと考えてしまいました。

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